初雪

4/4
前へ
/54ページ
次へ
「はいっ」 答えて駆け出そうとした瞬間、目の前に小さな白がちらついた。 「…………?」 そっと上を見上げると、幾つも幾つも落ちてくる白。 「あぁ、雪ですね。寒いはずです。」 何時の間に現れたのか、隣に並んだ空が呟いた。 「これが、雪…ですか…?」 データとしてしか知らない冬の風物詩。 「そう。今年初めての雪だから、初雪ですね。」 そっと手を伸ばした空を真似して、華音も手を伸ばしてみる。 ポトリと手のひらに落ちた雪は、すぐに溶けて消えた。 「冷たいです。」 「氷みたいなものですから。さ、早く行きましょう。」 一つ笑みを残して歩いていく空の、その背から視線をやや上に向け、華音はそっと囁いた。 「凜音、見てますか?初雪ですって。」 ふふ、と笑んで。 「今年初めて、の初雪じゃなくて、私が初めて見た、の初雪ですよ。」 一つ白い息を吐き、華音は空を追いかけた。 今日の夕飯は暖かいシチューを作ろう。 凜音と私と羽音と。 みんなで食べればきっと暖かいはず。 白い息に込めた華音の考えは、冬の空気に流れていった。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加