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「はいっ」
答えて駆け出そうとした瞬間、目の前に小さな白がちらついた。
「…………?」
そっと上を見上げると、幾つも幾つも落ちてくる白。
「あぁ、雪ですね。寒いはずです。」
何時の間に現れたのか、隣に並んだ空が呟いた。
「これが、雪…ですか…?」
データとしてしか知らない冬の風物詩。
「そう。今年初めての雪だから、初雪ですね。」
そっと手を伸ばした空を真似して、華音も手を伸ばしてみる。
ポトリと手のひらに落ちた雪は、すぐに溶けて消えた。
「冷たいです。」
「氷みたいなものですから。さ、早く行きましょう。」
一つ笑みを残して歩いていく空の、その背から視線をやや上に向け、華音はそっと囁いた。
「凜音、見てますか?初雪ですって。」
ふふ、と笑んで。
「今年初めて、の初雪じゃなくて、私が初めて見た、の初雪ですよ。」
一つ白い息を吐き、華音は空を追いかけた。
今日の夕飯は暖かいシチューを作ろう。
凜音と私と羽音と。
みんなで食べればきっと暖かいはず。
白い息に込めた華音の考えは、冬の空気に流れていった。
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