第1話 小さな事件

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ジリリリリッ。 窓の隙間から朝の陽光が部屋の中へと侵入してきた。 整然と並べられた背の高い本棚。 ノートや辞典が広げられている勉強机。 机の横に置かれた、布に包まれている細い刀の様な置物。 そして窓に寄りそう様な形で置かれたベッド。 そのベッドには人が寝ており、枕元に陽光が当たる。 ジリリリッ。 設定した時間に鳴る目覚まし時計の音が 先ほどから室内に響く。 「…っん…。」 ジリリリリッ。 「…っん。」 ジリリリリリ…。 「うるさい!!!!」 ベッドに眠っていた人物は、目覚まし時計のアラームに嫌気を覚え、乱暴に時計を床へ叩き落とす! ジリンッ。 「・・・・・眠い。」 叩き落としたのち、枕に顔をうずめボソッと呟(つぶや)く。 この目覚まし時計を床に叩き落とすという 暴挙(ぼうきょ)に出た人物。 ―名を「鈴 キク乃」 現在、『空船(ソラフネ)小学校』という学校に通う小学校6年生。 腰まであるつややかな黒髪。 強い意志を感じさせながらどこか生意気な黒い瞳。 「美少女」と呼ばれても問題ない容姿。 ・・・のだが今は起きたばかり為、 黒い瞳は、どこかボーっとしている。 枕から顔を離して大きく欠伸をし右手で顔を覆う前髪をかきあげた。 枕の近くには、組み立て式のカレンダーが置いてあり、 眠気が抜けない目でカレンダーを睨む。 「・・・今日は、3月10日か・・・特に何も・」 「無い!」と言いかけてキク乃は、 ふと頭の中で何か引っかかりを覚えた。 ・・・・まてよ。今日は何かあったはず。 重要な『何か』のはずなのだが、思い出せない。 平日で・・朝で・・・時間・・ その連想の先にあるのは? 「・・・学校?」 沈黙。 「・・・・げっ!!!今日は卒業式じゃん!」 大声をあげてすぐさまベッドから飛び起きた。 眠気なんぞ、すでに無くなっている 卒業式・入学式に向けて購入した真新しい中学校の制服を ハンガ―から外し、頭から制服を被った。 そして紺色のスカートを履き、最後に等身大の鏡の前で長い黒髪を後ろで結ぶ。 「これでよしっ!!」 ばっちりと決まった姿を見て、一つ頷くと足早に部屋を出て行く。
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