第1話 小さな事件

3/8
35人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
部屋を出て,階段を駆けおりる。 「母さん!急いでご飯!」 「おはようキク乃。それより,顔を洗って!」 肩まである茶髪を揺らしながら, キク乃を窘(たしな)めたのは母:雪白(ゆきしろ)。 「...朝から騒がしいなキク乃。」 「あれ?父さん。今日は休み?」 「お前,今日は卒業式だろう?」 あきれた様にため息をつく。 新聞を開いているのは父:久士(ヒサシ)。 「あっ,そうだった。ってか,急がなきゃ!!」 キク乃が洗面所へと消えると,雪白と久士はお互いに視線を合わせクスリと笑う。 しばらくして,久士は雪白に尋ねる。 「そういえば雪白。朝っぱらから電話があったようだが?」 「さっきの?さっきの電話は学校からよ。 ”卒業式は延期”になって,3時間目までの授業を行うそうよ?」 「.....。」 話を聞いた久士は,何も言えなくなって口をポカーンと開ける。 ...忘れていた。雪白は「極度の天然」だったのを。 「行ってらっしゃーい!」 不機嫌顔のキク乃を送り出した 雪白は朝の片付けに入った。 久士は,顔に新聞を被せて寝息を立てる。 そんな鈴家のリビングには つけっぱなしのテレビでニュースを流していた。 『…昨日,3日前に高崎銀行で強盗をした犯人の1人が逮捕されました。警察によると犯人は,ある少女の説得によって自首したということです。』 -これは,探偵キクの手柄でしょうか- 「クシュ!うわぁ風邪かな?」 くしゃみをしながら呟いていたキク乃は,現在全力疾走中である。 空船小学校の校門が閉まるのは,8時30分。 今の時刻は,8時29分。 ・・・何故キク乃が現在全力疾走中か,ご理解いただけただろうか? 曲がり角をようやく抜け,開けた一本道が見えた。 …その先では,今校門を閉めている所だ! キク乃に気付いたのか,閉め始めている教師がこちらを向く。 「ふん!」 「うわっ!あの先生,わかってて閉めてくんだけどっ!!」 必死に叫ぶが門は無情にも閉じてしまう! 教師も学校の中へ入って行った。 呆然としながら,門の前で腕を組む。 高くそびえる門と塀。 塀から飛び出した桜の木。 「んじゃ,木をつたって中に入ろう!!」 誰もが思いついてもしない行動を実行する事にしたキク乃。 ...キク乃は慣れた手つきで登り,学校の敷地内に入った。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!