0-Dimension

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~10年前~ 2024/5/3 僕は事故に会った。 列車事故。 死者50人を超える大事故。 家族の中で生き残ったのは僕だけだった。 僕はその事故以来、言葉を失った。 医者がいうには、失語症…という障害を、僕は負ってしまったらしい。 言語機能の中枢(言語野)が損傷されることにより、一旦獲得した言語機能が障害され、言葉を話せなくなってしまう病気らしい。 …らしい。 こんな風に客観的に思ったのは、言葉を失ったショックよりも大きなショックを受けたからだろう。 父さん、母さん…二人を失ってしまった現実と比べれば、言葉を失った現実なんてどうでもよかったんだ…と思う。 程なくして、父さんと母さんの葬式、当時5歳だった僕は葬式の意味さえ知らなかった。けど、周りの人が泣いているのを見て、なんとなくだけど分かった。 もう会えないんだなぁ。 もう二度と会えないんだ。 そう思うと、自然と涙がこぼれた。 「父さん母さん。」と声をあげて泣きたかった。 「一人にしないで。帰ってきて。」とそう言いたかった。 けれどそれは適わぬ事で、叶わない事だった。 それがすごく悔しくて、悔しくて。 その時にやっと、言葉を失った現実を理解したんだと思う。
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