4898人が本棚に入れています
本棚に追加
「なあ、さっきの患者、見た感じかなりヤバイよな。」
「ああ!あのなんとかっていう会社の社長夫人だろ?」
ピクッ。
社長夫人という単語に、進めていた足を止める。
彼らからは私が見えないのか、全く私に気づく様子はなかった。
社長夫人って…私の事…?
総合病院とはいえ、同じ日に同じような時間にCTを撮る社長夫人が2人もいるとは考えにくい。
急にドクドクと胸の鼓動が早まり、こっそりと耳を傾けた。
「診察した医者の話しでは…」
そこで言葉を区切り、男性が声を潜める。
「子宮癌だろうって、それも末期の。」
微かに聞こえてきた単語に、頭の中は真っ白になった。
理解出来ない。
頭が追いつかない。
ただ冷や汗が額を濡らす。
震え出した指先をぎゅっと握りしめ、その場にへたり込んだ。
「あの感じだと…余命半年じゃないかって言ってたな…可哀想に。子供も居るらしいし…。」
余命…半年………?
次々と聞こえてくる言葉に、どんどん呼吸が苦しくなってくる。
子宮癌…?
余命半年?
私が――――――?
体中が小刻みに震え出し、自分自身を抱きしめるように腕を回した。
最初のコメントを投稿しよう!