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そこからどうやって帰ったか分からない。
薬も貰わずに、車も呼ばず、気付けば住み慣れた我が家に帰って居た。
「奥様…奥様、どうなさったんです?病院では何と?顔色があまりに悪すぎます。」
目の前には、出迎えてくれた茜さんと大平さんが居る。
玄関で呆然と佇む私を心配そうに覗き込む。
「…また熱が上がってるのかしら…。茜さん、男性を連れて来て。寝室にお運びしましょう。」
「はい!」
バタバタと駆けていく茜さんの足音が遠ざかって行った。
いつもなら「廊下は静かに歩きなさい!」と叱る大平さんも、今日ばかりはそんな事気にもとめない。
「奥様…何故車をお呼びにならなかったんです?…こんなに体が冷えて…。」
今にも泣きそうな声で大平さんが言った。
何か言わなくてはと思うのに…喉がカラカラに乾いていて声が出ない。
話せたとしても、何を言ったら良いのか。
何から話すべきなのか。
そもそも、まだ私自身が理解出来ていない。
あの技師が何を言っていたのか。
私の病気が何なのか。
確かに聞いたはずなのに、分からない。
庭師の拓海君が私を抱き抱えて歩き出しても、私は瞬きさえ忘れてどこか遠くを見つめていた。
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