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「ただの風邪だよ。ただ、少しこじらせちゃったみたい。…海斗が帰って来てくれて…嬉しい。」
ぎゅっと、海斗のスーツを掴みその胸に顔を埋める。
「そうか…良かった…。」
心底ホッとしたように言い、私を温めるため海斗が更に強く抱きしめてくれた。
……涙が出そうだ。
だけど、こらえなければ。
ここで泣いたらまた海斗が心配する。
この時私は、病院で聞いた事は絶対に言わないでおこうと心に決めた。
いつまで隠せるかなんて分からない。
きっと体はどんどん衰弱していくだろうし、隠しきれない程に悪化していく一方だろう。
でも、できるだけ長く海斗や子供達の笑顔を見ていたいと思ったから。
哀しみにくれる大切なもの達の涙を、見たくなかったから。
「……」
しばらくして、ドアが開く音で目が覚めた。
いつの間にか眠っていたらしい。
隣に海斗の姿はなかった。
もぞもぞと体を起こしドアの方を見ると、愛しい子供達が顔を覗かせているのが見える。
「おかえり。どうしたの?そんな所で。」
ふふっと微笑んで見せたら、三人は途端に安堵の表情を浮かべた。
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