4898人が本棚に入れています
本棚に追加
コトッ…。
書き終えたと同時に、万年筆を机の上に置く。
そして両手で顔を覆い天井を見上げた。
ぐちゃぐちゃに濡れた頬が冷たい。
指の隙間から流れる涙が髪の毛を濡らす。
全然、書ききれなかった。
こんな紙の上じゃ、私の海斗への想いの全てを書く事なんか出来なかった。
何度も何度も海斗の顔が浮かび、その度海斗の顔が悲しみに歪んでいく。
書きながら…辛くて悲しくてたまらなかった。
きっと海斗はこれ以上の悲しみを背負うのだ。
そう思ったらやりきれなくて、書く手は何度も止まった。
でも…何度も何度も書き直して、やっと見られる字が書けた…。
声を殺しすすり泣いていたら、突然書斎のドアがノックされた。
念のため鍵を閉めてあったので、「はい」とだけ返し相手の言葉を待つ。
「茜です。良かった…奥様こちらにいらしたんですね。奥様のお兄様がいらっしゃっております。」
「え!?」
びっくりして、椅子から勢い良く立ち上がった。
慌てて涙を拭きドアを開ける。
「お兄ちゃんが?」
私が問いかけた茜さんの後ろで、お兄ちゃんがにっこりと笑っていた。
最初のコメントを投稿しよう!