海斗の悲痛な涙

6/7
前へ
/90ページ
次へ
きつく、力強い抱擁。 海斗の不安や動揺がダイレクトに伝わってくる。 それが辛くて、私も海斗の背中に腕を回し強く抱きしめた。 耳元で、海斗の吐息が揺れて乱れる。 「何故なんだ…何故遊里なんだ!!何故…俺の大切な物を奪おうとするんだ!!」 その言葉が誰に向けられたものかは分からなかった。 でも…きっと、『運命』に向かってなのだと思う。 海斗を深く傷つけた。 震える広い背中が辛い。 どんな言葉をかけたら良いのかも分からず、ただ抱きしめるしかなかった。 「ダメだ!遊里…死ぬな…俺を遺して死ぬな!!お前を失いたくない…お前を…」 泣き叫ぶみたく。 海斗が耳元で言葉を吐き出す。 『うん死なないよ。大丈夫だよ。』 そう言えばきっと海斗は安心するのに、それが言えないのが苦しい。 こんな時でも、嘘はつけない。 ついたって…私が死ぬ事実は変わらないんだから。 余計に海斗を傷つけ混乱させるだけだ。 「ごめんね…ごめんね海斗っ…」 「嫌だ。許すと思うのか!俺より先に死ぬなんて…こんなに愛しているのに!!」
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4898人が本棚に入れています
本棚に追加