プロローグ

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
天窓から差し込む、細い光のすじ。 夜明けの僅かにもかかわらず、室内は明るい。薄く水で満たされた床。微かな流れを挟む両の壁沿いに、手入れの行き届いた浮根魂(ネツコダマ)の花。四方を囲む石壁から注ぎ落ちる水柱、その小さな滝の中に、人の背丈ほどの巨大な輝きの珠が浮かんでる。静かに揺らぐその輝きは、冷たく寂しく、辺りに灯を与えていた。まるで、閉じこめられた光の生き物が、深く吐いた吐息のように……。 龍宮―。輝く珠は、玉座に座る一人の老婆と、御前の石の上に並び立つ、白髪の少年少女を照らし出していた。 玉座の傍らに置かれた壺の中は、輝きの珠と同じ光で満ちている。老婆は杓子でそれを小鳥の卵ほどにすくい、カンジャギの樹液で作った小さな袋にトロリと流し、端をきつく結んだ。一人の少女が、老婆の前に歩み寄る。 少女は顔を天に向け、口を大きく開いた。老婆はそっと、その唇に輝きの珠を授ける。 少女はゴクリとその珠を飲み込んだ。その時、少女は天窓の向こうを飛んでいる白鳥を見ていた。いや、白鳥が少女を見ていたのかもしれない。 少女には少し大きすぎたのだろう。喉奥の痛みに歪んでいたその表情に、ゆっくりと生気が戻った。 無理に笑顔を作った少女に老婆は哀しく微笑み返した。 「……お願いしますね、ナズナ」 「はい、太陽の祖母様……」(サンノオバ) カンジャギで作った袋は消化されず、これより運命の到来まで、彼女の胃の中に留まり続ける。 その輝きの珠を彼らは『ヒルコ』と呼んだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!