第二章 第一話:『兄と姉』

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   新入生クエストを終えた一年生と四年生達には、束の間の休息が与えられる。  期間は最長一週間、短くても週末の三日間(クエストに掛かる時間がそれぞれ違う為生じる差だ)は休日となるので、彼ら彼女らはこの序盤にクエストのレポートを手っ取り早く片付けてしまい、残りの完全なる安息日を謳歌する。  というのは、普段から一層真面目に勉学に取り組んでいる一部の者達の話。多くの場合その安息日は、或いは普段の学園生活よりも、目先の娯楽から堅忍不抜の心を以て机に噛り付かねばならない日となる。  休み明けには、中間試験が待ち構えているのだ。  魔法学部の試験は筆記・実技・実習に三分されており、先の一週間で前者二つ、その翌週から実習を行う。  実習は科目別の試験とは違って学科毎に形式が異なりそれぞれに掛かる時間もバラける為、より難易度の高い内容が指定される期末試験では、準備期間を含めると実習だけで二週間も設けられている。  とはいえ、中間試験での実習は長くて一週間。つまり筆記・実技を合わせた二週間が試験期間となり、実習を終えるとまたすぐに通常授業に身を投じなければならない。勿論赤点など取ろうものなら容赦なく放課後の休息が補習地獄へと早変わりだ。  その為生徒達は、日中は教室の机に噛り付き、夜は学園北部の大図書館や各校舎にある訓練室などで、これまで学んだ講義内容の復習といった試験対策に余念がなかった。  アレン=レディアントもその一人で、この期間は夜遅くまで自室の明かりを落とさなかったのだが、妹のイリスや幼馴染みのシャルが軽いおさらい程度に夜を更かしたのとは、些か以上に理由が違っていた。 「ふぁ……っ」  大きな欠伸に、目から涙を浮かべる。 「試験、どうだった?」  と覗き込むように訊ねたのはイリス。こちらは別段寝不足という訳ではないようで、両手を後ろで組みながら、ふくらはぎ辺りまで伸ばした銀髪を揺らしていた。 「んー、まあまあかなー」  目を擦りながら、気のない返事をした。所々撥ねている黄金色の髪の前側だけ奇妙に癖が付いているところを見るに、時間が余ったので寝ていたらしい。 「ノートとかちゃんと取ってるんなら、いい加減普段からきちんと勉強したらいいのに……」  とは言うものの、口調には諦めが色濃く浮かんでいた。
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