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「待ってよ、シャル!」
外に出たらシャルは既に大通りに出るところで、急いで走りようやく追い付いたアレンは息を切らしながらも一言文句を言ったが、
「……遅い」
対するシャルはまだ不機嫌なままだった。
そんなに恥ずかしかったのだろうかと先程の会話を思い返してみるが、アレンからしてみればフェルナがアレンのことでシャルを弄るのはいつものことだったので、本人は全く気にしていなかった。シャルのことも大切だとは思っているものの、生まれた時からずっと一緒なので変に意識したことはなかったし、フェルナの冗談を態々本気で受けるつもりはないのだ。
実はそれこそがシャルの不機嫌の理由の一つで、あの問答の際にアレンは一言も発しなかったのだが、せめて何か反応でも示してくれればシャルとしては不本意でも先に進めるというものだった。しかし、残念ながらこの金髪の少年にそういうことを期待するのはどうやら不毛な願いらしい。
そんなシャルの葛藤は露ほども知らず、煉瓦で綺麗に整えられた道を呑気に歩いていたアレンだったが、ふとパン屋が目に留まり立ち止まった。
「ねぇ、広場に行くんならここらへんでお昼ご飯買っといた方がいいんじゃない?」
いつもなら昼食を摂って外に出るのだが話に夢中でその時間を過ぎてしまい、さらにシャルが飛び出してしまった為弁当すら貰っていなかったのだ。神殿の近くにも飲食店はあるのだが、子供だけで入れるようなところではないのでここで買わないと後でまた戻らなくてはならず、それは正直面倒だ。
シャルも同意見らしく、既に肩に下げた白いポーチから財布を取り出していた。
「それもそうね。今日は特にいるだろうし……」
「“今日は”?」
少し気になる言い方だったが、シャルはさっさと店内へ入ってしまった。
「いらっしゃい。あぁ、アレンとシャルちゃんか」
店に入ると、四十代前半の男の店主が声を掛けてきた。
「こんにちは、おじさん。いつものセットと、今日は余分に二つずつくらいパンが欲しいんだけど……」
「はいよ、ちょっと待っときな」
店主はそう言うと店の奥に引っ込んだ。
ここは昼食を摂る前に出掛けた時に寄るパン屋の一つで、二人はすっかり常連客になっていた。
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