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「……おしまい」
小さな明かりのみが点いた暗い部屋の中、パタン、と本を閉じながら、長くて綺麗な黒髪を持った女性が言った。
「かごってなんなの?」
隣に寝転がっていた男の子が、暗い部屋でも一目で判る黄金色の髪を揺らしながら訊ねた。
「うーん、そうねぇ。たとえば……」
傍(かたわ)らの女性‐セフィーナは、そう言いながら男の子の黄金色の髪を撫でた。艶があって、先程丁寧に櫛を通してあげたのにもう所々が撥ねている。そんな髪を見て、良く見知った人物を想い返しつつ話を続ける。
「……アレンのこの綺麗な金色の髪は、光の精霊にすごく愛されている証なの。この世界の人たちはみんな少しずつ精霊の加護を授かっているんだけど、その中でも特に強い加護を授かった人たちの髪や瞳は、アレンみたいにその精霊を象徴する色になるの。アレンなら光の精霊、シャルちゃんなら火の精霊みたいにね」
「シャルもなの?じゃあ、お母さんも?」
「えぇ、そうよ。お母さんは闇の精霊の加護を強く授かっているの。だから、アレンの綺麗な金色の髪と瞳は、お父さんに似たのね……どうかしたの、アレン?」
柔らかくてサラサラな自分の髪を優しく触りつつアレンに目を向けると、何故か少しだけ拗ねたような顔をしていた。それをおかしく思い、何か変なことでも言ったかと考えてみるが、特に思い当たる節はない。
「……お母さんに似たとこもあったら良かったのに」
その言葉に少しだけキョトンとして、しかしすぐに柔らかな笑みを浮かべた。父親のことが嫌いなのではなく、両親を同じだけ愛しているからこそ、片方にだけ似たことが不満のようだ。
そんな想いを感じて、さらに愛しくなる我が子をそっと抱き寄せる。
「あら、お母さんはアレンがお父さんに似てくれてとっても嬉しいわよ?それに目や鼻の形はお母さんにそっくりって、この間シャルちゃんのお母さんも言っていたんだから」
そう言うと、むくれた顔が笑みに変わったのを感じた。その様子がまた愛しく感じられ、同時に解り易い子だとも思う。
「さ、今日はもう遅いから寝なさい」
「はーい。おやすみなさい」
「おやすみなさい、アレン」
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