間章 其之一:『雨明けの陽射し』

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   風呂の順番を待つ間、アレンは自室のベッドに横になっていた。  寝転びながら、物思いに耽る。とにかくここのところは色々なことがあり過ぎた。  まずは一番最近、というよりつい数十分前までのことを頭に思い浮かべる。  あの後三人でお祭りに行ったのだが、射的とか、水風船釣りとか、色々なもので遊ぶ前に、まずイリスの目がある一点に釘付けになっていることに気付いた。  キラキラと輝く銀の瞳に映っていたのは、りんご飴だった。 「おにいちゃん、あれなにっ?」  と訊かれて説明してやると、益々顔が輝いた。  すぐに、食べたいとねだられた。  二人分の小遣いは貰っていたし、ギルドで働いた報酬がまだ少し残っていたので、渋りはしなかった。強面のおじさん(いつも街中で商売をしている人だ)にお金を払うと、サービスだと言ってアレンとシャルの分までくれた。  三人揃って、かじり付いた。パリッと硬い飴の皮を突き破って、シャリッとした実が姿を現す。飴の甘さと実の酸っぱさが、口の中で混ざり合った。  初めて体験した味が気に入ったのか、イリスはあっという間に食べ尽くしてしまった。アレンもシャルもその様を微笑ましく思い、頬を緩めた。  が、それ以降五歩も歩かないうちに次々と別の屋台に飛び付くうえに、アレンとシャルが追い付く間もなく食べ物を受け取っていくので、たちまち頬が引き攣ってしまった。  最終的にシャルの財布までをも空にしてしまったイリスは、当然セフィーナにこっぴどく叱られた。なにせセフィーナは残った分を臨時の小遣いにするつもりで余分に渡したのだ。それがギルドの報酬どころかシャルの財布まですっからかんなのだから、親として子供にお金の大切さたるやを教える必要性に駆られたのは当たり前であり、その静かなる怒りが兄の責任としてアレンにまで飛び火したのも詮無きことだった。  一緒に暮らすようになって初めてセフィーナに叱られたイリスは、意外なことに泣き喚かなかった。  セフィーナの叱り方が怒鳴り散らすものではなかったのもあったのかもしれない。説教の最中は 目にぐっと涙を溜める以外は、アレンの服の端を小さな手で掴むだけだった。
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