間章 其之一:『雨明けの陽射し』

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   ――あの後から、また少し身の周りに変化が起こった。  イリスの底知れぬ胃袋の大きさを目の当たりにしたお祭り以降、シャルはイリスを妹のように、イリスもシャルを姉のように慕い、三人で過ごすことが増えた。またアレンは素性の知れないイリスを『護る』為にと、上級学院への進学に向けてセフィーナから剣を教わり始めた。その少し後から、アクアとノアとも頻繁に絡むようになった(ノアはアクアの傍に付いているだけが多かったが)。  あの陰湿な嫌がらせは、冬休みが明けた魔法学で張りぼての炎を見せた途端、何事もなかったかのように息を潜めた。誰がやったかは判らなかったが、周囲の反応や嫌がらせの規模から察するに、少数に依る犯行だったとシャルは見ている。廊下で陰口を叩いていた友人達の仕業かは、五年生からクラスが変わったこともあって自然と疎遠となってしまったので、結局のところ判明していない。  陰湿と言えば、ユーグの実家はその少し後に奴隷所有が発覚し、爵位を剥奪されたそうだ。検挙に踏み込んだ王国軍が他にも色々と怪しい品々を押収したらしいが、そちらには興味がなかったので二人とも詳細は知らない。  そうやって紆余曲折を経て現在に至る訳だが、あの時の出来事は、シャルにとってもアレンにとっても、とても辛くて、けれどとても大切なものだった。  もう一度経験したいとは間違っても思わないが、おかげでシャルは、当たり前だと思っていた自分の『世界』の大切さを知った。アレンもまた、自分にとって大切な何かを得ることが出来た。あれがなければ、今の二人はいないだろう。  ただ、シャルはアレンにガーデンを離れずに済んだとしか話しておらず、『力』を取り戻す為の条件については未だに伝えていなかった。  話したところで、アレンにはどうしようもない事柄なのだ。ならば無駄に焦らせることもないだろう。  それに、そんなことを言わなくても、アレンは一緒にいてくれる。そう信じられたから言わなかった。 (それとも、律儀に“あの誓い”を守っているんですかね)  傘を差したまま、目の前の墓標へクスリと笑い掛けた。
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