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(もう、きちんと言いなさいよ)
思っているのとは逆に、口喧嘩の雰囲気が出来上がっていってしまう。それでは駄目なのだ。
あの時は、なし崩し的になってしまって言えなかった。
その後も時間が空いてしまったからか、妙に言い辛くなってしまい、結局伝えられなかった。
だが『力』を取り戻した今なら、タイミング的にも心情的にもバッチリだ。だから言わなければ。
ありがとう、と。
あの時駆け付けてくれて、傍にいてくれてありがとう、と。
「あっ、」
「ん?」
「……あの時からよね、あんたが誕生日にプレゼントくれるようになったの」
が、実際声に出た言葉に、内心で自己嫌悪に陥ってしまった。
そんなシャルの葛藤など露ほども知らず、アレンは思い出したように視線を上げる。
「あぁ……まぁ、あの時だけ渡してそれっきりってのもなんか変だったからな」
「アクセサリーなんてくれたのはこれっきりだけどね」
「無茶言うなよ。それだって買うの大変だったんだぞ?」
「はいはい、年下の女の子と一緒に働いて稼いだんでしょ。聞いたわよもう」
「……確かにそうなんだけど、なんか嫌な感じに聞こえるのはなんでだ?」
「さぁ、後ろめたい事があるからじゃない?」
「ちがっ、シンシアはそんなんじゃ……!」
「はいはいそれも聞きました。それよりアレン、私最近欲しいネックレスがあるのよね~」
「………知らん」
そのまま、二人は墓地を出て街へと繰り出していった。
結局言えなかったが、また今度にしようと思ってしまうのは、駄目だろうか。
この髪留めがある限り、アレンはここにいてくれると思ってしまうのは、いけないことだろうか。
だって、例えこれが失われても、あの時感じた想いが消えることなんてないのだから。
もしアレンが“ここ”から離れても、今度は自分から“そこ”に行けるのだから。
悟られないように何気なく、シャルは隣に並んだ。
鮮やかな緋色の髪が揺れて、それを束ねる金色の髪留めが、陽の光に煌めいた。
『我、光の精霊の名の下に誓う』
『我が力を剣(つるぎ)とし、我が意志を盾とし』
『我が魂の憑代として此れを贈り、如何なる闇をも倶に歩まんと』
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