間章 其之一:『雨明けの陽射し』

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(もう、きちんと言いなさいよ)  思っているのとは逆に、口喧嘩の雰囲気が出来上がっていってしまう。それでは駄目なのだ。  あの時は、なし崩し的になってしまって言えなかった。  その後も時間が空いてしまったからか、妙に言い辛くなってしまい、結局伝えられなかった。  だが『力』を取り戻した今なら、タイミング的にも心情的にもバッチリだ。だから言わなければ。  ありがとう、と。  あの時駆け付けてくれて、傍にいてくれてありがとう、と。 「あっ、」 「ん?」 「……あの時からよね、あんたが誕生日にプレゼントくれるようになったの」  が、実際声に出た言葉に、内心で自己嫌悪に陥ってしまった。  そんなシャルの葛藤など露ほども知らず、アレンは思い出したように視線を上げる。 「あぁ……まぁ、あの時だけ渡してそれっきりってのもなんか変だったからな」 「アクセサリーなんてくれたのはこれっきりだけどね」 「無茶言うなよ。それだって買うの大変だったんだぞ?」 「はいはい、年下の女の子と一緒に働いて稼いだんでしょ。聞いたわよもう」 「……確かにそうなんだけど、なんか嫌な感じに聞こえるのはなんでだ?」 「さぁ、後ろめたい事があるからじゃない?」 「ちがっ、シンシアはそんなんじゃ……!」 「はいはいそれも聞きました。それよりアレン、私最近欲しいネックレスがあるのよね~」 「………知らん」  そのまま、二人は墓地を出て街へと繰り出していった。  結局言えなかったが、また今度にしようと思ってしまうのは、駄目だろうか。  この髪留めがある限り、アレンはここにいてくれると思ってしまうのは、いけないことだろうか。  だって、例えこれが失われても、あの時感じた想いが消えることなんてないのだから。  もしアレンが“ここ”から離れても、今度は自分から“そこ”に行けるのだから。  悟られないように何気なく、シャルは隣に並んだ。  鮮やかな緋色の髪が揺れて、それを束ねる金色の髪留めが、陽の光に煌めいた。 『我、光の精霊の名の下に誓う』 『我が力を剣(つるぎ)とし、我が意志を盾とし』 『我が魂の憑代として此れを贈り、如何なる闇をも倶に歩まんと』  
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