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資格試験の日程は多少のバラつきがあるが、一月や二月も間隔がある訳でもない。しかも今は中間試験の真っ只中だ。さらに言えば、アレン達魔法学科の実習は学園指定のクエストとなっている。
一体何を焦っているのかと、二人は揃って溜め息を吐いた。
が、彼女の事情を鑑みれば、気持ちが解らない訳ではなかった。
ほんの数日前まで、シャルは魔法が使えなかった。正確に言い表すなら、不完全な魔法しか、だ。
六年前の事件が切っ掛けで魔法を失い、その数ヶ月後に僅かながら『力』を取り戻したものの、以来五年間(正確には五年と五ヶ月)、ずっとその状態で過ごしてきた。それが、つい数日前の新入生クエストの折、紆余曲折を経て、ようやく完全に『力』を取り戻したのだ。今まで出来なかったこと、やりたかったことを自由に出来る喜びは、計り知れない。
「まぁ、あいつのやりたいようにやればいいのかもな」
言って、アレンは視線を空に向けた。
晴れた空には、雲が大きな塊を作って点在している。
将来的に何になるかは知らないが、取れるものは取っておいても問題はないだろう。無茶なスケジュールを省みないのはともかくとして。
それにそう言ったのは、なんとなく、シャルの思惑が理解出来たからでもあった。主に『第四級開拓魔導術師資格』辺りから。
だから、ついなんとなく、
「俺もなんか取ろっかなぁー……」
と呟いてイリスに驚愕されたのは、仕方のないことだった。
「お兄ちゃん、どこか打ったの!? それとも何か拾い食いでもした!?」
鳩が豆鉄砲を喰らったと言うよりは雀が上級魔法を喰らったような様子に、アレンは目を細める。
「……一応聞くけど、どういう意味だ?」
「えっ? あっ、いや、別にお兄ちゃんが『資格取ろっかなー』なんて言い出したことが今後十年はないくらい驚いたとか一瞬真剣に病院に連れていこうか迷ったとかじゃないんだよっ? ただちょっと、ほんのちょびっとだけ、本当にこれくらいだけ意外だっただけで……」
慌てて弁明するイリスは、片目を瞑って摘まむように人差し指と親指の間隔を狭めた。
「……もういい、お前が俺をどう見てたのかがよぉくわかった」
「ちょっ、待ってお兄ちゃん、謝るからぁっ!」
涙目で引き留めるイリスに、足を速めたアレンの口元は意地悪そうにニヤ付いていた。
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