第二章 第一話:『兄と姉』

7/31
前へ
/760ページ
次へ
   魔法学部新入生の一学期は、とにかく忙しい。  まず他の学部に先駆けて入学式が始まる二週間前から寮に入り、一週間掛けて身体測定を含めた様々な能力測定を行う。その後一週間以内に測定結果が通知されるのでその間に身の周りのものを整え、通知を参考にしながら入学式の直後から行われる公開授業を見学し、授業を選択する。  授業が始まると、入学試験の結果に依って振り分けられた小規模クラス(と言っても五十名ほどだが)の必修、自由に選択可能な学年指定がされた中規模クラスの選択授業では初日のみ授業の説明と簡単な自己紹介――以前アレン達がダグラスにやらされたアレだ――だけで終えたが、上級生も受ける大規模クラスの選択授業では、初日と言えどカリキュラム通り授業内容が進行する。その苛酷さは、基礎学院(若しくは基礎学校)上がりの新入生達に放課後の安息を許さなかった。  そのような酷烈な環境に慣れる間もなく訪れるのが、五月の頭から行われる新入生クエストだ。  毎年四月末週から四年生と共に準備を行い、長ければ一週間は掛かるこのクエストは、殆ど魔物を見た経験のない一年生達が、野外実習のノウハウを習得する目的で執り行われている。難易度としてはそれほどでもないのだが(ただし“一部”を除く)、慣れない野宿や魔物との戦闘に、魔導師見習いとしても新米な新入生達は気力体力共に疲弊することとなる。  しかし、彼ら彼女らに気の休まる暇は与えられない。新入生クエストが終わると、その直後に中間テストが控えているのだ。  次々と繰り出されるペーパーテストを呻吟しながら三日で終わらせ、残りの三日で実技試験を終わらせると、次の一週間に腕を組んで待ち構えている学科別に指定された実習を撃破しなければならない。  それらを刻苦勉励の末クリアしてもすぐさま通常授業が再開されるのだが、それでもとりあえずこの地獄の一端を乗り切ってみせたと、過密にスケジュールされた筆記試験を終えたばかりの初々しき一年生諸生徒達は、心の底から歓喜に身を震わせた。――傍から、期末試験という名の悪魔が高笑いを上げながら炎天下に待ち構えていることを担当教諭から何気なく伝えられた瞬間の、幼さの抜けきっていない顔に浮かび上がった表情を絵で表現するなら、劇画調が最も適合していただろう。
/760ページ

最初のコメントを投稿しよう!

236人が本棚に入れています
本棚に追加