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以上のような経緯にも拘らず、それでも魔法学部新一年生達の心は折れない。どころか、試験に対するその威勢――姿勢ではない――は、よりヒートアップの一途を辿ることとなった。一部、し過ぎて壊れ掛けてもいたが。
正直そんなにしょっちゅう試験やらクエストやらをするのはどうかと思うし明らかに他の学部よりきついですよねと抗議の念を抱きもするが、彼ら彼女らにとってはとりあえず元の放課後を取り戻すことこそが現状に於ける最重要事項なのだ。それにこの苦行を乗り越えれば一つのイベントが待ってもいる。些か学園側の良いように操られている気がしないではないが、都合の悪い真実よりも目先の安息であるうら若き少年少女達は、放課後のあるかどうかも定かでないほんの僅かな休息を悪魔の手先(補習)から護るべく、この期間に全霊を込めて挑むのだった。
そんな生徒が、ここにも一人。
「にしたって、詰め過ぎだと思うのはアタシだけじゃないと思うんだけどなぁ」
ミリアム=リーラ=ガーフィールド、愛称はミリーだ。相も変わらず癖毛なのか意図的なのか判別が付かない少し赤み掛かったオレンジのショートヘアを、ぐったりと下に向けている。入学前から続くハードスケジュールに、疲弊以上に辟易としているようだ。
「ですが、あとは実技と実習だけですし、頑張りましょう?」
そんな少女に苦笑ぎみな笑顔を向けたのはステラ。こちらも疲れてはいるようだが、彼女ほどではなさそうだ。
「……ステラ、さっきの試験どうだった?」
「うーん、多分赤点はないと思いますが……」
ということは学年上位には確実に入っているのだろうなと、ミリーは羨ましげに溜め息を吐いた。謙虚な性格というのは、時として嫌味にしか思えないこともある。
そんな少女に首を傾げて、ステラは隣に視線を向ける。
「リオン君はどうでした?」
「まぁ、普通かな? いつも通りだと思うよ」
「……リオン君、それって嫌味?」
「まさか」
見上げる形で答えた暗緑色の少年は、続いて向けられたジロッとした視線に肩を竦めた。ちなみに彼の成績は意外なことに(?)学年トップなので、ミリーが睨むのも詮無きことなのだが。
「はぁ~あ、頭のいい人たちはうらやましいですねぇ~」
やってられないとばかりに頭の後ろで両手を組んで、ミリーは空を仰いだ。
そんな彼女に、二人は困ったような表情をする。
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