第二章 第一話:『兄と姉』

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   先に述べた通り、筆記試験は最初の三日で全て終わる。  普段は七限まである授業を全て試験に廻すので学生達の精神的疲労は極限にまで達するのだが、今日この三日目のみ、試験は午前中で終えることとなる。故に、まだ実技と実習があるというのに、四限目終業の鐘が鳴った途端教室が歓声に包まれたのは、無理からぬことだった。  今日の午後は授業もなく、殆どの学生は明日から始まる実技試験に向けての復習時間に割り当てるのだが、学内で魔法の使用が正式に許可されているのは、個人用、複数人用とある訓練室と実習室の他には闘技場だけと場所が限られており、魔法学部に在籍する生徒の総数から言って、必然、部屋の予約は一杯になる。  規模の小さな魔法程度なら教室でも使用が許可されているが、生憎と四年生が指定されたのは掌に光球を浮かべるような簡単な魔法ではないので、アレン達も早くから起きた予約競争に便乗し、六限から複数人用の訓練室に赴く予定だ。  という訳で、連日とは違い余裕を持って昼食にありつけるアレンとイリスはこれからまさしく空腹を満たしにいくつもりだったのだが、ひょんなことから思わぬ客人と連れ立つことになってしまっていた。  一口に「食堂」と言われたのだが、ガーデンで昼食を摂れる場所は多い。しかも学内の至るところに散らばっている為、この栗色の女性が思うところの「食堂」がどこなのか、見当が付かなかった。  それを説明すると、 「まあ、そうなのですか? それは困りました」  と軽く口を手で覆ったのだが、やはり言葉ほど困ったようには見えなかった。 「でしたら、一番人が集まる所にお連れ頂けますか? 多分、連れの者もそちらにいると思いますので」  とのことなので、結局三人は、広い学内で最も飲食店の集まるエリア、通称『食堂』に向かっていた(アレンが前述の説明をしたのは、栗色の女性が学園内で使われているこの通称を知っていよう筈もなかったからだ)。 「何分こちらの大陸に来るのは随分久しぶりなものでしたので、つい周りの景色に魅入っているうちにいつの間にか一人になっていて、正直途方に暮れていたのです。ですが、お二人とお逢い出来たのは私(わたくし)にとって幸運でした」  向かいがてら楽しそうに二人に経緯を話す女性は、やはり笑顔を絶やさない。どう見ても「途方に暮れていた」ようには思えなかった。
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