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「はぁ、そうなんですか……」
随分呑気なんだな、と内心で苦笑いを浮かべるアレンは、よくマイペースと言われる自分以上にマイペースな女性に、曖昧な言葉しか返せないでいた。
「どこの大陸からきたの?」
小首を傾げながら訊ねたイリス。口調は普通だったが、アレンの隣で少し隠れるように女性を覗いているところを見るに、少なからず人見知りが発動しているようだ。
そんな少女が可愛らしいのか、女性はますます笑顔に華を咲かせる。
「地の大陸です。あちらはこちらほど自然が多くありませんので」
質問に答えるついでに、景色に魅入っていた理由も説明してくれた。
「どうしてこっちに?」
これはアレン。質問ばかりでなんだか申し訳ないとも思ったが、知り合ったばかりの間柄で自然とこうなってしまうのは仕方がないとも思った。
「少々人に会いに。妹なのですが、今年からこちらに入学した子でして」
「へぇ~、じゃあもしかしたら知ってる子かもしれないねっ」
新学期が始まって既に一月半、当然ながらステラとリオン以外の一年生とも顔見知り程度にはなっているので出た言葉だったが、二人はこの少し前に『食堂』で起きていたことも、この女性がその場で紅茶に舌鼓を打っていた青年の姉であることも知らない。
「あっ、あそこですよ」
そんな当たり障りのない会話をしているうちに到着した『食堂』では、昼休みに入って三十分以上が経過していたこともあって、既に多くの学生達が共用のテーブルに着き、また周辺の飲食店の前では長蛇の列が群を成していた。
魔法学部と武術学部、双方の校舎のちょうど中間に位置するここが最も人が集まるというのは、今が昼休みというのと、単純に二つの学部に在籍する学生数が他の三つの比ではないからだった。
「うわっ、やっぱり……」
げんなりとした言葉を最後まで言うならば、「やっぱり混んでるよ」だ。
「アクアたち、いるかな?」
こうなるともう微笑みの女神が先に席を取ってくれていることを祈るしかないと、イリスは辺りを見渡した。が、別段今日は待ち合わせていた訳ではないので、当然、その姿は『食堂』のどこにも見当たらなかった。
代わりに、妙な雰囲気に包まれている席が目に入った。
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