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筆記試験からのようやくの解放に欣喜(きんき)しながら昼食を摂る周囲とは違い、そのテーブルの周りだけ、赤点補習が確定した憐れな学生達よりもさらに重苦しい空気が圧し掛かっていた。
その席に腰掛けていたのは、奥から、目を閉じてティーカップに口を付ける見慣れない褐色の髪の青年、その右の席で、ちらほら見たことがある顔に僅かながら汗を浮かべているオレンジ髪の一年生、向かって左側で相変わらず弛めた表情を、しかし微妙に困ったものへと変えている暗緑色の少年、そして、青年の正面で居た堪れなそうに背中を縮めている、濃い茶髪の少女だった。
「……何やってんだ、あいつら?」
状況がさっぱり読めないアレンは、迂闊に声を掛けることも憚られたのだが、
「あぁ、やはりこちらにいましたか!」
非常に重苦しい雰囲気に構うことなく、栗色の女性がそちらへと近付いていった。
「捜しましたよ、マルス。もう、姉を置いていくなんて酷い弟ね」
「ッルナ姉様……!」
突然背後から聞こえた声に振り向いて、その主を視界に入れた途端目を丸くしたステラに、女性はニッコリと微笑む。
「久しぶりね、ステラ。と言っても最後に会ったのが年明けだから、まだ半年も経っていないけれども。元気にやっているの?」
「あ、その……はい、それなりには……」
はっきりとしない返事に、ルナは少し怒った表情をした。あくまでも、そのフリだが。
「もう、そこは嘘でも『はい、元気です』と言ってくれないと、折角会いにきた姉兄(きょうだい)に心配を掛けてどうするの。マルスはマルスで私(わたくし)を一人置いて先へ行ってしまうし、本当に我が弟と妹は姉にばかり心配させるんですから」
「お言葉ですが姉上」
と、ここでマルスと呼ばれた青年が口を挟んだ。
「私が『寄り道は所用を済ませてから』と再三申し上げたにも拘らず、フラフラと学内を彷徨(うろつ)かれたのは姉上です。それといつも心配する側に立たされているのは我々の方だという事には、どうやらお気付きない様で」
「あら、そうでしたか?」
刺々しく放たれた皮肉に、ルナはキョトンと小首を傾げた。
全く懲りていない姉に、マルスは溜め息と共に頭を振った。
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