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それだけ言い残して、さっさとその場を後にした。
「あっ、マルス待ちなさい! ステラ、また夜に会いましょう? 皆さんもお元気で。……時間が出来たのだから何と言おうと観光しますからねっ!」
慌てて立ち上がったルナも、立ち去る背中に声を放りながら追い掛けていった。
嵐のような女性(ひと)だな、と思ったのは、アレンだけではあるまい。
「なんか、ステラには悪いけど台風みたいな人だね……」
実際、ミリーは口に出して言った。直情的というか、思ったことははっきり口にする性質(たち)なのだろう。
「でも、おもしろい人たちだったなぁ」
弛い声を放ったのはリオン。春先にアルベルト達と初対面を果たした時も同じような感想を述べていたが、もしや初めて会う人物に対しては全てそう言っているのではないだろうか。
「ステラ、どうかしたの?」
ようやく見知った顔だけになり緊張の糸がほつれたイリスが、視線を膝の上の拳に向けたまま動かないステラに声を掛けた。
反応のない少女に、全員の視線が注がれる。
「……………っはあぁ~~」
これでもかというくらい溜め込んだ息を、一息に吐き出した。
「大丈夫か?」
なんだか尋常ではない溜め息に、アレンは眉を寄せた。
「大丈夫です。少し緊張してしまって……」
「あぁ~、知り合いの前で家族が会いにくると変に緊張しちゃうもんね~」
それにしたって緊張し過ぎだろうと思いつつ、ミリーが頭の後ろで手を組みながら「わかるわかる」といった風に頷いた。
しかし、ステラは遠慮がちに首を横に振る。
「いえ、そうではなくて……その、実を言いますと……」
言おうか言うまいか一度逡巡して、結局ステラは胸の内を明かすことにした。
「苦手なんです、姉様も、兄様も」
「えっ? でもステラ、お姉さんたちのこと小さい頃から自慢だったんじゃないの?」
心底困り果てたように肩を落とした様子に、リオンが首を傾げた。新入生クエストが終わったすぐ後、リオンも多少なりとも彼女の身の上話を耳にしていたのだ。
ステラの話に依れば、ルナは地の大陸の医療学院を歴代で最も優秀な成績を以て卒院、兄のマルスも、現在最終学年として、同期の中で最も期待されているそうだ。
「勿論、お二人は今でも私の自慢ですし、尊敬もしています。ですが年が離れている所為か、姉兄としてよりも尊敬する人物として見てしまうのです……」
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