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そんな二人を前にして畏縮してしまったのだろう。もしかしたら、医療学院の試験を放ってこちらへ来た後ろめたさもあるのかもしれない。
「それに……」
と、さらにステラは困ったように頬に手を添えた。
「ルナ姉様は独特というか、非常にマイペースな性格でして、いつも私や兄様の予想の斜め上を空中浮遊しているような方なのです。マルス兄様はマルス兄様で正直あの不機嫌そうな表情以外を見た憶えがなくて、つい何かにつけてお叱りを受けるのではないかと考えてしまうのです。結局、性格は真逆なのに、お二人とも何を考えていらっしゃるのか解らないという点は同じでして……」
「あぁ、それは……」
なんとも気苦労の絶えない話だと、他の四人の顔に同情の色が浮かんだ。
「ま、まぁでも血の繋がった姉兄なんだし、腹割って話せば大丈夫だって! ……多分」
「そっ、そーそー! 今回のをいい機会だと思えばなんとかなるよ! ……きっと」
台詞の末尾に全く説得力を感じないレディアント兄妹(きょうだい)だった。
「うぅ、頑張ってみます……」
縮むように項垂れたステラ。心の底から夜が待ち遠しくなさそうだ。
「血の繋がったキョウダイだから、ねぇ……」
「え?」
天井を仰いだままボソリと呟いたミリーに、リオンが訊き返した。
「んーにゃっ、なんでもないよーっ。それよかそろそろ昼休み終わるし、訓練室行こっか」
ミリーはそれを快活な笑顔で受け流すと、常の通りの跳ねるような声色で立ち上がった。
「……そうだね、遅れても時間がもったいないし」
さらりと躱されたリオンも、特に追求はしなかった。相変わらずの弛い表情のまま立ち上がる。
「俺たちはもうちょいゆっくりするか?」
「うん、まだお昼全然食べてないもん」
話を再開する折に昼食も運んできたのだが、やはりと言うか、大食少女の胃袋は満たされなかったらしい。もっともアレンもあの空気の中まともに食事を摂れるほど神経が図太くはなく、結局飲み物しか頼んでいなかったので、イリスの予想通りの回答には肯定的だった。
「じゃあ二人とも、また。ステラ、行くよ」
「はい……お二人とも、さようなら……」
伏せぎみの視線で会釈をしたステラの声は、本当に今生の別れのようだった。
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