第二章 第一話:『兄と姉』

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 目的のものに関連しそうな本を片っ端から机に積み上げて目を通してはみたが、 様々な本を調べるうちに関係のない項目にまで興味をそそられ、気付いた時にはこの時間だったのだ。  もっとも、そもそもこの本の山々が本当に目的のものに関連しているかどうかすら定かでなかったことも原因の一つだった。今開いているこの本も、名だたる魔導師達を良く知れば何か手掛かりを掴めるのではないかと思って調べていただけで、確証があった訳ではない。……そのままのめり込みそうになったことは否定出来ないが。 (流石にこれは的外れだったか……)  視線を再び本に落として、やれやれと心中だけで首を振った。  魔法や詠唱の構成理論が書かれた本には、基礎部分から目を通した。それで見付からなかったからこういったものから何かしらのヒントを得ようと考えたのだが、流石にこの本は見当違いだったようだ。世界的に活躍した魔導師の名前とその時代、後はその功績を簡単に纏めただけで、何か手掛かりの一端がある訳でも、彼らの得意とする魔法が分かる訳でもなかった。  一つ気になったと言えば、初代イグニスら『先導者』達の扱っていた『失われし魔法』の詳細が、何故現代に伝わっていないのか。そもそもいくら大陸分断で殆どが死に絶えたとはいえ、ここに記録されている者達以外に生き残りがいなかったとは思えない。 (まぁ、神の加護を持たない現代人に伝えた処で意味は無いと判断したのかも知れんが……)  と、このように思考が横道に逸れていく所為で本来の目的が捗らなかったのだともう一度気付いて、再び思考を元の所へと戻す。  今調べているのは、人間が扱う魔法に関することだ。  だが、ただの魔法ではない……のだと思う。実を言うと、まずその段階からして不明だった。  あの灰色の火山で見た、緋色の炎。詠唱も詠唱破棄も行わず、しかも魔法名すら唱えずに焔の蜥蜴を屠った少女の、圧倒的な『力』。あれは本当に、人間が精霊の力を借りた現代の魔法と同じものなのだろうか。  そもそも“魔法名を唱えない魔法”というのが、人間の扱う魔法では有り得ないのだ。しかもあれは、強力な魔力に依って創られた炎の鎧を身に纏った魔法生物に、明らかなダメージを与えるほどの魔力を持っていたのだから尚更だ。指先に少し火を灯すのとは訳が違う。
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