第二章 第一話:『兄と姉』

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 だからこそその正体を確かめる為に、クエストから帰ってほぼ毎日、こうして大図書館に通い詰めているのだった。試験など、普段真面目に講義を受けているのだから今更復習の必要はない。  しかし、今のところ成果はなかった。相当な広さを有する大図書館には魔法関連の書物がまだまだあるが、授業で扱うような体系化された魔法に関するものにはあまり期待が持てない(実際の習得はともかく、理論的なものは既に最終学年の分まで読み終えているのだ)。となると、様々な魔導学者達の研究論文を中心に調べた方が良いのかもしれない。  ――いっそ、イリスに訊いてみるのはどうだろうか。 (………いや)  一瞬だけ考えて、すぐに心中で頭を振った。  あの銀髪の少女は何故か自分を苦手としているようだし、クエストでの一件もある。訊ねに行ったところで逃げられるのは目に見えていた。それを承知で態々行って妙な罪悪感に苛まれるのは御免だ。  それに、自らの手で探して知るからこその知的探究心だ。答えだけをすんなり聞かされても、正直言って何も嬉しくない。  やはり時間は掛かっても自分で調べることにしよう。別段、この件は急を要している訳でもないのだ。  拳に頭を乗せながらそんなことを考えていると、 「ん、……」  隣から聞こえた声に、思考が途切れた。  本の山に埋もれるように突っ伏す少女の寝顔が、身動(みじろ)いだことでこちらを覗いていた。どんな夢を見ているのか、随分と幸せそうだ。  目に被さった紺青色の髪を、優しく払い除ける。  新入生クエスト以降、アクアは妙に眠そうにしている。以前までなら月に二、三度程度だった朝寝坊は今では二日に一度のペースになっており、日中も常に目を擦っていた。今も昼休みの直後に来た急激な睡魔に抗えず、こうして机に凭れ掛かっているのだ。  本人は暖かくなった所為かもしれないと苦い微笑みを浮かべていたが、よく言い訳に使われる間違った五月病などではないことは明らかだ。しかし、日中の行動を妨げるほどこうなった原因が解らない。
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