第二章 第一話:『兄と姉』

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 十五階建てと学生寮にしてはかなり背の高いこの集合住宅は、最も新しいこの区画の中でも最近建てられた物だ。小耳に挟んだ話では一昨年の終わり頃だそうで、四月の終わりにお邪魔したアレン達の寮と比べると確かに少し内外装が綺麗に見えた。  なので、必然的にこの寮に住む学生は二年生と一年生が中心となっており、二人以外にも知り合いがちらほら住んでいる。十五階もあるので、他大陸出身で部屋を示し合わせる相手がいなかった二人とは部屋の位置がバラバラだが。  ステラの部屋はここの七階にあり、リオンの部屋は十三階とかなり上に位置している。寮の造りは概ね同じなので(あまり差を付け過ぎると後々の改築費用が嵩(かさ)むからと専らの噂だ)、上り下りが面倒なことを除けば過ごし易さは他と然して変わらない。  手動のドアを開いた先に待つ玄関ホールは、天井が高い造りの為か、少し広めの印象を与える。一階につき二十は部屋があるので、建物自体が大きいこともあるのだろう。来客用か学生達の為か、隅の方にソファとテーブルが幾つか用意されており、傍にはエレベーターが二基あった。  最初期の寮と最近の寮で最も違うのは、何と言ってもエレベーターの有無だ。階層的に使う必要がなかったこともあるが、それよりもまずその技術がなかったのだ。  エルスペロに於ける消費エネルギーの比率は、魔力に依るものが圧倒的に多い。特に魔力と機械を組み合わせた魔導科学が発達し出した近年では、その差は相当なものとなっている。  魔力を活用しない自然科学(魔力も自然的なものなので、この分類方法は厳密には間違っていると言えるのだが)でのエネルギー生産方法も無論存在するが、コストパフォーマンスは雲泥の差だ。仮に街灯に使う電気を生産したとして、自然科学を利用した方法で十生み出さなければならないものを、魔力は一にも満たない量で賄えてしまうのだ。予め魔力を蓄えている魔石などの魔力的資源を用いれば、エネルギー生産の手間すら省ける。
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