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とはいえ、例えば路面電車のような大掛かりの物が欠片程度の大きさの魔石で半年間駆動し続けられるようになったのは、本当にここ数十年の話だ。造った当初は漬物石のような魔石をゴツゴツとした機械でがんじがらめにして動かしていたのだが、魔力の動力への変換効率の悪さと機械の工程の無駄の多さのおかげで、半日駆動し続けただけで魔石を交換しなければならなかったほど、その頃の技術力は低かったのだ。
何度か装いを新たにしたとはいえ、ガーデンが造られたばかりの頃に建てられた寮などに魔石を動力としたエレベーターがあろう筈もなく、最初期でなくとも二十より若い区画の寮は未だにエレベーターが備わっていないまま、或いは増築工事の最中で、建物の背も高くて七階や八階といった物ばかりだった。
それらとは違いきちんと備わったエレベーターで、二人は上階へと昇る。変わらず会話がないまま、七階へ到着した。
重過ぎる足取りで、ステラはエレベーターを降りる。
「ステラ」
不意に、後方から呼び留められた。
振り向いた先にある暗緑色の視線は、こちらを直視しない。
ただ、
「色々事情はあるかもしれないけど、話せる時に話した方がいいと思うよ」
そう言っただけだった。掴みどころのない弛い顔には、少し憂いのようなものが窺えた気がした。
なんだかいつもと違う様子に、首を傾げる。
「? あの、リオン君どういう――」
訊き返したところで、エレベーターの扉が隔たった。
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