236人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、今日は歩き回って汗も掻いてしまったし、ステラもまだ帰ってきそうになかったから、勝手にで悪いのだけれどシャワーを借りさせて貰ったの。もう暑くて暑くて。あぁ、着替えは自分の物だから安心して? いくら妹でも勝手に寝室に入る真似はしませんとも」
寝室より先に勝手に鍵を開けることを気にして欲しかった、と言えればどれだけ良かっただろうか。
「私は勝手に家に上がるのはどうかと思ったのだがな。まぁ、お前の普段の生活態度を見る良い機会だと思わせて貰った。この部屋を見る限りでは、どうやらだらけた生活は送っていないようだな」
「と、当然ですよ……!」
淡々と語るマルスの言葉に、ステラは普段きちんと掃除をしていた自分に心中でガッツポーズを取った。
「さて……」
もう一口紅茶を啜って、マルスが徐に切り出した。
「そろそろ本題に――」
「そろそろお夕飯にしましょう!」
ところを、ルナに遮られた。
笑顔で両手を合わせた姉に、弟である兄がこめかみを押さえる。
「……姉上、話の腰を折らないで頂きたいのですが」
「あら、ですがもう夕食には遅い時間ですよ? ステラだってお腹が空いたでしょう?」
「えっ? と、あの……」
確かにまだ夕食は摂っていなかったが、愉しげな笑顔を向けてくる姉と悩ましげに眉を寄せる兄とを見て、言葉に詰まってしまった。
少しの間だけ、ステラは熟考する。それはもう、これ以上ないくらい真剣に。
「……姉様、申し訳ありませんが先にお話を済ませてから頂きませんか?」
「むぅ~。ステラがそう言うのなら、私は構わないけれど……」
と言いつつ、大人びた気品溢れる端正な顔は子供のような膨れっ面になっていた。
どちらが姉なのか疑いたくなる仕草に、マルスはやれやれとばかりに首を振る。
「では掛けろ、ステラ。姉上も、いつまでも剥れていないでお掛け下さい」
「別に、むくれてなどいませんっ」
隣の椅子を引きながらした反論は、(彼女にとって)残念ながら受け取られなかった。
「さて……」
それぞれに紅茶を淹れ直し(勿論淹れたのはステラだ)、気を取り直して話を再開する。
「我々がお前に会いに来たという事は、昼に伝えたな?」
「はい。それで、どのような御用件なのでしょうか?」
最初のコメントを投稿しよう!