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正面に座るステラの言葉に、マルスの眉がピクリと反応した。
「どのような?」
益々、眉間に皺が寄った。
「昼間も同じ様な事を言っていたが、我々が態々遠く離れたこの地を訪れた理由を、お前は本当に解らないと言うのか?」
「それは……」
ギロリ、という効果音と共に睨まれて、身体が強張った。
そう、態々問わずとも解っていた。決して暇ではない筈のこの姉と兄が、貴重な時間を割いて自分のところにやってきた用事とは何なのかくらい。
敢えて訊ねたのは、そうでなくて欲しいというただの悪足掻きだ。それすら、一縷もない希望(のぞみ)だとも解っている。
そんな心の内を見透かされた気がして、ステラは口の中が急速に乾いていくのを感じた。
「マルス、あまりステラを虐めてはいけませんよ? まぁ、好きな娘(こ)ほど虐めたくなるという男子特有の心理状態は伺った事がありますが、実の妹に対してそれはさすがにちょっと……」
「その良く解らない心理状態が実在するのかはともかく、少なくとも私は実の妹に劣情を来す様な人格破綻者ではありませんし、まず第一にステラを虐めている訳でもありませんし、そして何より一々話を妙な方向に持っていくのはやめて頂けませんか」
助け船と言って良いのか躊躇われるルナの台詞を、さらに眉を寄せたマルスが一刀両断した。
だが、その程度で挫けるこの姉ではない。
「それで、ステラ?」
全くお構いなく、話を横取りした。その隣で、マルスが悩ましげに掌を顔に押し付けた。
「医院から試験に来なかったと連絡を受けた時は、屋敷中大騒ぎだったのよ? お父様はもう怒り心頭といった風だったし、お母様なんてショックの余り倒れられてしまって……」
「……申し訳ありません」
俯いて、ステラはばつが悪そうに視線を逸らした。
やはり、用事の内容は予想通りだった。
ステラの実家は、シャルの実家と同格に位置する、『地の一族』と呼ばれる貴族だ。特に医者として名を馳せたその一族の者は代々地の大陸にある医療学院に通い、医者を目指す事が通例化されている。
ステラも本来であれば、彼女の姉兄と同じようにそこに通い、医者の卵として同期の者達と心身共に切磋琢磨する筈だった。
だが、一年前のある事件を切っ掛けに自らが持つ『力』は人を救うに値しないと考え、医療学院の入学試験を放り投げてガーデンにやってきたのだ。
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