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「――テラ、ステラ!」
「!」
ハッと我に返ると、ルナが慌てた様子で呼び掛けていた。
「あ……」
いつの間にか両手で握り締めていたカップに、亀裂が生じていた。同時に、手の感覚が元に戻る。
「――っつぅ!?」
突然襲い掛かってきた熱と痛みに、慌てて手を放した。その拍子にカップが倒れて中身がテーブルに溢れ、さらに熱湯を被った。
「きゃっ、マルス布巾を! ステラ、早く冷やさないと!」
すぐさまオープンキッチンまで手を引かれ、蛇口から溢れ出した水に両手を突っ込まされた。
「……申し訳ありません」
「突然あんな話を聴かされたら動揺するのも無理ないわ。しばらくそうしていなさい」
言って、ルナはテーブルを片付けに向かった。
「…………」
リビングからの光で生まれた影の中で、ステラはその様に目を向けることなく視線を洗い場へと落とす。
溢れ続ける水は、手の内側に籠もった熱を奪っていく。紅茶を被った瞬間の鋭い痛みは、今はない。
代わりに、ジンジンとした痛みが拡がっていった。
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