第二章 第二話:『銃爪と爪痕』

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 そのうちの一人、ディノ=エドガルド=セルヴァの表情は暗かった。  平均より少し上程度の総合成績で『学びの(ガーデン)』に入学した彼にとって、中間試験とは他の大多数の生徒同様乗り越えなければならない関門の一つだ。連日連夜の試験勉強を終えてすぐ訪れた実技の復習という悪魔の使いに辟易している学友達と同じように、良く言えば優しい、悪く言えば少し気弱な印象を与える渋紙色の瞳には疲労が見え隠れしている。  しかしながら、その双眸を収めた同じく頼りなさそうな(既に何度となく断言されているが)表情が悲壮感すら窺わせるほどに暗いのは、たかだか定期テストの為などでは断じてなかった。  今朝方からだ。こんな歩く傍から地面に深々と足跡を刻んでしまいそうなくらい気分が沈んでしまっているのは、間違いなく今朝、眠気眼で寮の郵便受けの中身と掲示板を見た所為だった。  まず郵便受けの中にあった封筒を取り出して学生部からの物と確認し、続いて部屋へ戻るついでに掲示板に目を通した。学部別に分けられた掲示板の一番上の項目を読んで、エレベーターの中で欠伸混じりに封筒の中身を確認した。そして即座に襲った驚愕のしばらく後から、今のこの気分に苛まれ続けているのだった。  一体どうして。それが一度開いたエレベーターの扉が閉じようとした際、驚愕の残滓に浮かんだ言葉だ。驚愕した時は言葉すら浮かんでこなかった。  運が悪いのか、日頃の行いが悪いのか。どちらにせよ数千分の一という確率に当たってしまった事実に変わりはない。  いや、数千分の一の三乗か。 (あー、どうしよ……)  まったく、どうして選りにも選ってこうなってしまったのか。とディノは鈍い思考を涅(くり)色の頭髪と共にもたげる。  一乗目はまだ良い。いつかこんな日を迎えることになるかもと、入学式の直後にある程度の覚悟は済ませていたのだ。  ただ、二乗目と三乗目は納得出来ない。特に三乗目など誰かが意図的に仕組んだとしか思えないくらいだ。  二乗目でも頭を抱えたくなるというのに、まったく本当に……。 「あ、いた。ディノ!」  廊下を行く生徒達を掻き分けて自分の名を呼んだ声に、若干顔を顰めて振り返った。  華奢な身体を自分と同じ黒の制服で包んだ少女が、放った声と同じく人混みを縫って駆けてきた。
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