第二章 第二話:『銃爪と爪痕』

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「もうっ、なんで朝先に行っちゃったのよ! 必修の教室にもいないし」  辿り着いたのとほぼ同時に少女の小さな口から飛び出したのが不満たっぷりの声だったので、ディノは気付かれない程度に息を吐く。 「最後の確認したかったんだよ。空いてる教室使ってた」 「なら一言くらい言ってくれてもいいじゃない。わたしだって――」 「……どうせすぐに飽きる癖に」 「なんか言った?」  ボソリと呟くと、葡萄茶(えびちゃ)色の大きな瞳があからさまな不機嫌さを帯びた。 「別に。それより試験どうだった? まぁフィーナのことだから赤点はないだろうけど」 「当たり前よ。ディノは人より自分の心配をしとけばいいの。……どうだったの?」  当然とばかりに腰に手を当てた少女は、片側を結った短めの葡萄色の髪を揺らしながらこちらを窺い見た。同い年の子よりも背が低いからか、それとも自分が少しだけ高めだからか、上目遣いのようになる。 「まぁ、なんとかなったよ。まだぎこちなさっていうか、違和感みたいのはなくならないけど……」 「……そっか」  答えると、少女は安堵なのか不満なのか判らない息を吐いた。  デルフィナ=ノビア=オリソンテ、フィーナは幼少からの友人だ。家族ぐるみの付き合いからして、幼馴染みという間柄にカテゴライズされるのだろう。ディノに付いてくるように一緒にガーデンへやってきたし、寮の部屋も向かい合わせになるよう選んだ(選ばされた)くらいだ。  彼女が、“二乗目”だ。正確にはその片割れというか、要員というか、要因というか……。 「……何よ?」  変わらず憂鬱な表情のまま視線を注ぐと、デルフィナも眉を寄せた。この眼付きになったら危険信号だ。さっさと取り繕わないと被害は肉体的損傷にまで及ぶかもしれない。  「いや、なんでも――」  すぐさま視線を外した直後、不意に響いた鈍く大きな音と共に校舎が僅かに揺れて、言葉を遮られた。  廊下にいた生徒達が、一斉に何事かと動揺する。 「なんだ、今の……? 地震か?」 「いや、向こうから聞こえたぞ」  慌ただしい声色に釣られて、その場の視線が一方向に向けられる。咄嗟に身体を寄せたデルフィナの肩に手を置きながらディノもそちらを窺い見ると、一つの訓練室の周辺が一際ざわめいているのが遠目に見えた。どうやらその部屋で行われている実技試験で何かあったらしい。
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