第二章 第二話:『銃爪と爪痕』

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『―“あの事”を、気にしているの?―』  朝、寝不足のまま実習の通知に、そこに記された名に目を通した途端、玄関先で答えに詰まっていたところへ掛けられた、去り際のルナの言葉が蘇った。  ステラが犯した罪は、何も身内にだけ影響のあるものではない。生命を一つ奪い掛けたのだ。当然、害を被った者には人生を左右するほどの影響を及ぼした筈だ。  それを忘れて、自分だけのうのうと元の暮らしに戻っても良いのだろうか。  実技試験の最中も、次の試験の為にリオンとミリーと一緒に移動している最中も、鼓膜を揺らす会話を弾いてそのことばかりが思考を占拠する。  仮に――もし仮に、害を被ったその人物や周囲の人達が、ステラが何事もなかったかのように医院へ通い出したのを知ったら、どう思うだろう。気にするな、過ちは誰にでもあると、過去のことは水に流して背中を押してくれるだろうか。  いや。間違いなく、怒りを露わにする筈だ。ふざけるな、あんなことをしておいてと、声を荒らげて拳を振り翳す筈だ。  ――答えは、否だ。  戻って良い筈がない。それが自身への罰なのだとしても、それが“彼”への贖罪だなどと、一体誰が思えるというのだ。  現に、今目の前にいる少女は憤慨している。綺麗な瞳に憎しみを宿して、ステラを睨み付けている。彼女と“彼”の間柄を知っているからこそ、ステラにはその理由が良く解っていた。 「――お前ッ!!」 「フィーナ!」 「――ッ!」  葡萄色の光に身を包んだデルフィナが、掌に集まった同色の光の中から何かを抜き取り、襲い掛かった。一見して薙刀のような、槍の穂先が刃状になったような武器だ。  咄嗟に召喚した身を覆い隠しても余りあるほどの大剣で、ステラは振り下ろされた一撃を辛うじて受け止めた。  互いの刃が擦れ合う音と共に、デルフィナの怒声が廊下に響き渡る。 「どの面下げてディノに会いにきたッ!! 今更謝りにきたとでも言うつもり!?」 「ッ、……!」  重い。  華奢な身体からは想像出来ないほどの衝撃を加えた一撃ではなく、受け止めた先に見える葡萄茶色の瞳に満ちた怒りが、包み隠さず心に重く圧し掛かってきていた。
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