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「うん、ならそういうことで。それじゃお互い次の試験もあるし、そろそろ。誰かさんの所為で集まった視線もいい加減きついし」
「あ、はい……」
言われて初めて、ステラは自分達が廊下にいた生徒達から一斉に注目を浴びていることに気が付いた。
こんなところで斬り合って大声で怒鳴り散らしていたのだ、当然だろう。寧ろそろそろ移動しないと、騒ぎを聞き付けた風紀委員が駆け付けてくるかもしれない。
「それじゃ」
ステラの横を通る形で、ディノが歩き出した。その背中にしがみ付いたデルフィナが、敵意剥き出しの眼をしながらわざとらしく顔を背ける。
「あのっ!」
通り過ぎて少し経ってから、ステラは遠退く背中を呼び止めた。
振り向かず、ディノは歩みだけを止めた。
止まった後ろ姿に向けて、口を開く。
「っ、……」
だが、声が出ない。掛ける言葉が見付からない。自分が何を言いたいのかが解らない。
いや、言いたい言葉はあるのだ。訊きたいことはあるのだ。ただそれを伝えるのが、訊ねるのが怖くて、喉の筋肉が攣ってしまうのではないかと思えるくらい強張ってしまっていた。
そのうち、ディノがまた歩き出した。デルフィナは相変わらずこちらを見ようともしない。
何も言えないまま、二人の姿は廊下の角へと消えていった。
「うーん、なんだか前途多難の予感?」
「……みたいだね」
困ったような顔のミリーに返しながら、リオンはステラへと視線を注ぐ。
息の詰まったような表情を俯けた少女は、胸に手を置いたまま動かない。まるで息と一緒に時間まで止まってしまったかのようだ。
それを見ながら、ある言葉が頭に浮かんだ。
(『罪』、ね……)
† † †
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