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「ディノ……ねぇディノったら!」
「………」
七度ほど呼んで、ようやく前を行く背が立ち止まった。
いつの間にか早歩きになっていた所為で少し乱れた呼吸を整え、デルフィナは窺い見るように訊ねる。
「無理、してない?」
「……してないよ」
振り向かないまま返してきたが、肩の震えは隠せていない。少し下側に移した視線の先で右腕がきつく掴まれているのを見て、眉を寄せる。
(嘘ばっかり)
納得いかない。何故ディノがこんな辛い想いをしなければならないのだ。それはあの女の役割の筈なのに、あいつはいけしゃあしゃあと新しく出来た友人達と楽しい学園生活を過ごしている。こっちに“あのこと”を知っている奴がいないのを良いことに、自分の『罪』を忘れて新しい生活に溶け込んでいる。それがこれ以上ないくらい心の中を引っ掻いていた。
(ムカつく……ムカつくムカつくムカつくッ)
入学してまだ一月半だというのに、同学年ではあの女(と緑髪のチビ)の噂が蔓延している。噂の元は新入生クエストでSクラスを成功させたというものだが、そこから拡がってやれ可愛いだのやれタイプだだのと話題になっているのだ。必修のクラスでも鬱陶しい男子どもが顔を寄せ合って話しているのを見掛けたが、頬を染めているのがバレバレで、見ていて気持ち悪いったらない。
(何よ、ちょっと顔とスタイルがいいからって……)
確かにあの幼いながらも整った顔は、この年頃の男の子にとって好み易いのかもしれない。背丈だって同年代にしてはスラッとしているし、胸は……言葉にしたら負けだと思うので詳細は省くが、まあ“そこそこ”だと思う。これら外見に関しては、私情を挟んだうえで、美少女に類されることは認めてやる。
けど! それでも! クラスの男子どもはあいつがどんな奴なのか知らないから、だからあんな間抜けな顔が出来るのだ。あいつの本性を知ったら次の瞬間から苦虫を噛み潰したようになるに違いない。
いや、まあクラスのバカな男子どもが誰に現を抜かそうが、そんなことはどうでも良いのだ。どうぞ思う存分好きなだけ呆けていてくださいさようなら、とバッサリ切り捨てて、デルフィナは一番ムカつくものへと思考を戻す。
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