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「……っていうのを昔聞いたことがあるよ?」
「ふーん……でも、その割にはそこまで他の子たちと違う感じはあんまりしないわね」
「でもシャルはもう下級魔法使えるでしょ?」
「あんなの、まだ簡単な魔法しか習ってないし、そもそもアレンだって使えるじゃない」
「でも他に使える子ってそんなにいないと思うけど……」
「わたしとしてはもっとこう、他の子に比べて魔力が異様に高いとか、上級魔法も詠唱なしで唱えられるとか、そういうのが欲しいのよ」
わかってないわね、と言って、燃えるような緋色の髪をポニーテールにした少女‐シャルは、テーブルの上に置いてあるクッキーを一つ取る。
そんな無茶なと思いつつも、その後にどうなるかが解っているのでアレンは口には出さない。代わりに自分も一つ取って口にすると、キッチンの方から声が聞こえた。
「そういうのはね、シャル。具体的に実感するようになるのは、十三歳くらいからなのよ。お母さんもそうだったしね」
オープンキッチンの向こう側から、シャルと同じ緋色の髪に、髪と同色の瞳を持った女性―フェルナが顔を出した。アレンの母とは違い力強く、それでいて長く美しい髪を後ろに流し、カチューシャをしている。その整った顔立ちは、まさにシャルの数十年後を彷彿させる。
「じゃあ、お母さんは具体的にどんな感じだったの?」
シャルは自分の母親と同じ色の瞳を向けた。
「それはその時のお楽しみでしょ」
ニヒヒ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべる自分の母親に、シャルはむっとする。いつもこれではぐらかされているのだ。
「でもシャル、精霊の加護っていうのは結構重要なのよ?」
「何に?冒険?」
まだむっとしているシャルはつっけんどんに返した。
「それもあるけど、なんてったって恋愛するうえで結構関わってくるのよ、これが」
「………」
真面目な顔して何を言っているのかと呆れながら、何も言わずに傍らに置いてあったジュースを飲むが、
「おばさん、どういうことなの?」
「あら、アレン君気になる?ははーん、さては気になる子でもできた?」
「――っ!?」
などと言い出し、思わずむせてしまった。
「しゃ、シャルっ、大丈夫!?」
「ゴホッ、ゴホッ……何でもない」
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