Prologue:『始まりの始まり』 1-1

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  「……っていうのを昔聞いたことがあるよ?」 「ふーん……でも、その割にはそこまで他の子たちと違う感じはあんまりしないわね」 「でもシャルはもう下級魔法使えるでしょ?」 「あんなの、まだ簡単な魔法しか習ってないし、そもそもアレンだって使えるじゃない」 「でも他に使える子ってそんなにいないと思うけど……」 「わたしとしてはもっとこう、他の子に比べて魔力が異様に高いとか、上級魔法も詠唱なしで唱えられるとか、そういうのが欲しいのよ」  わかってないわね、と言って、燃えるような緋色の髪をポニーテールにした少女‐シャルは、テーブルの上に置いてあるクッキーを一つ取る。  そんな無茶なと思いつつも、その後にどうなるかが解っているのでアレンは口には出さない。代わりに自分も一つ取って口にすると、キッチンの方から声が聞こえた。 「そういうのはね、シャル。具体的に実感するようになるのは、十三歳くらいからなのよ。お母さんもそうだったしね」  オープンキッチンの向こう側から、シャルと同じ緋色の髪に、髪と同色の瞳を持った女性―フェルナが顔を出した。アレンの母とは違い力強く、それでいて長く美しい髪を後ろに流し、カチューシャをしている。その整った顔立ちは、まさにシャルの数十年後を彷彿させる。 「じゃあ、お母さんは具体的にどんな感じだったの?」  シャルは自分の母親と同じ色の瞳を向けた。 「それはその時のお楽しみでしょ」  ニヒヒ、と悪戯っ子のような笑みを浮かべる自分の母親に、シャルはむっとする。いつもこれではぐらかされているのだ。 「でもシャル、精霊の加護っていうのは結構重要なのよ?」 「何に?冒険?」  まだむっとしているシャルはつっけんどんに返した。 「それもあるけど、なんてったって恋愛するうえで結構関わってくるのよ、これが」 「………」  真面目な顔して何を言っているのかと呆れながら、何も言わずに傍らに置いてあったジュースを飲むが、 「おばさん、どういうことなの?」 「あら、アレン君気になる?ははーん、さては気になる子でもできた?」 「――っ!?」  などと言い出し、思わずむせてしまった。 「しゃ、シャルっ、大丈夫!?」 「ゴホッ、ゴホッ……何でもない」
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