瀬戸の小島

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「待て、こらぁ~!」 「待つわけねえだろー!」 くやしいが、サッカーで鍛えた洋介には、走りでは敵わない。 はあはあと息をつく、わたしに追い付いた美香が言う。 「お姉ちゃん、はしゃぎ過ぎだよ」 「はしゃいでない……」 「美香ちゃんの言う通りだぞ、遥」 弘樹までもが、わたしの頭にポンと手を置いて通り過ぎて行った。 途中、道路を逸れ、松林に入った。 松林の中には車も通れない様な細い歩道が続き、わたし達は、やっとありついた日陰と、海からの風で気分が良かった。 微かに波の音が聴こえてくる。 「背の高い松だなぁ」 弘樹が、のんきに言う。 「そうだね。おじさまの家の近くにある松とは種類が違うんじゃない」 と、美智子は途中で買ったアクエリアスを飲んだ。 「……なあ、美智子」 「ん?」 「おじさんさあ……一人なのか?」 弘樹からの問いに、美智子は少し考えてから答えた。 「うん。数年前に、おばさまを亡くしたって聞いた。……だから」 「わかってるよ」 と、それだけ言って、弘樹はまた歩き出した。 行こう。わたしは美智子の手をとった。 美智子は、にっこり笑った。 砂浜は、ちょっと雄大だった。 左右どれだけあるんだろう。 はるか右手には林らしき影が見え、左側には、数百メートル先に岩場が見える。 これだけの綺麗な砂浜は、沖縄以来だ。 「すごいねえ、お姉ちゃん、沖縄みたいだね」 美香が、弾んだ声で言う。 「美香ちゃーん!遊ぼうぜ!」 先に波打ち際に走っていた洋介が、元気に手を振る。 うん!と、美香も手を振り駆け出して行った。 「青春だねえ」 近くの流木に腰掛け、弘樹は煙草に火を点けた。 「なにジジくさい事言ってんの」 と、わたしは苦笑しながら弘樹の隣に座る。 「おまえは行かないのか?」 「……後で行く」 そう言って煙草に火を点けた。 周平は、途中まで歩いて行き、腕を組んで黙って水平線を見ている。 まったく周平らしい。 美智子も、わたしの隣に立ち、片手で長い髪を押さえて水平線を見る。 わたしは知っていた。 水平線を見る視界の中に、周平も含まれている事を。
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