瀬戸の小島

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わたしは、右手でジーンズのポケットから、ライターを取り出し、灯した。 「遥、もう大丈夫だから」 と、美智子が左手を離す。 わたしは、うん。と頷き、改めてライターの明かりに照らされた洞窟を見た。 周りの壁は、一定の高さまで海水に侵食されて、とても滑らかで、それより上は、ごつごつとしている。 きっと、満ち潮には、この高さまで海水が来るのだろう。 ちょうど、わたしの腰くらいまであった。 背後からは、波と同時に、ひゅうひゅうと風が吹き込んで来る。 さっき濡れたTシャツが、洞窟の冷気と吹き込む風で冷やされ、とても冷たくなっていく。 外の気温とは、驚く程の差だ。 美智子の言った通り、徐々に洞窟は拡がり、もう天井高は、3メートル程になっていた。 奥行きは検討もつかないが、外から見た限りでは、かなりあると思われた。 わたしは、自分と美智子の足元を照らしながら進み、弘樹達に追い付いた。 「大丈夫?美智子さん」 美香が声を掛ける。 「うん、平気」 「しかし、相当深いみたいだな、この洞窟は。 美智子、以前はどのくらいまで進んだんだ?」 弘樹は、前方を見たまま尋ねた。 「小さな頃だから、覚えてないわ。ただ……従兄弟が確か、二股に別れてる……とか言ってた記憶があるの」 「そうか……」 弘樹は、ぽつりと言い、よし、戻ろう。と言った。 わたし達は、来た道を戻り、砂浜に出て座り込んだ。 別段、疲れてはいなかったけれど、なんとなく精神的に安堵した。 弘樹は、くわえ煙草で切り出した。 「なあ、明日にでも本格的に潜ってみないか?」 みんな、弘樹を見た。 「本気なの?」 わたしは、弘樹に言ったが、すぐさま、本気さ。と返された。 「だけど、明日は釣り三昧したいんだよ」 と、洋介が言う。 「別に明日じゃなくてもいいさ。明後日でもいい。昼飯に弁当でも持って、懐中電灯を持ってさ。どうだ?」 そう言う弘樹の顔は、まるで子供みたいで、思わず笑みが出た。 「俺はいいぜ。1週間釣りばっかりってのも、飽きるしな。周平は?」 洋介は、隣に座る相棒に聞いた。 「ああ、面白そうだ」 「わたしも潜ってみたいです」 美香までもが、賛成した。
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