瀬戸の小島

2/25
前へ
/52ページ
次へ
疾走するクルーザーに似た漁船の船縁に座り、わたしは腕を伸ばした。 時は真夏。容赦無い日射しを受けて、火照った腕が、波の飛沫と瀬戸内の海風によってクールダウンしていく。 わたしを含めた6人は、今、操船をしている……確か、波吉さんと言ったか……の漁船で、瀬戸内海の小島に向かっている。 わたしを含めた5人は、小さい頃からの同級生で、うち1人は、まだ高校生の、わたしの妹だ。 わたし達は、就職や進学を控えている事もあり、最後の思い出作りにと夏休みを利用して、この瀬戸内海の小島『宇賀島』に向かっている。 わたしの親友でもある、島本 美智子の遠縁の親戚が、宇賀島で網元をしているという事で、1週間滞在させて貰える事になったのだ。 美智子は今、反対側の船縁で、わたしの妹の、上村 美香と楽しそうに、きゃっきゃっと海に手を伸ばし、はしゃいでいる。 その脇には、ぐったりと座り込み、青い顔をした、水島 洋介がいる。 操舵室の脇には、同じく同級生の、南 周平が腕を組み、前方をにらんでいる。 わたしの前には、額に手をかざし遠くを見ている、仙道 弘樹が立っている。 「何か見えるの?」 わたしは、船から落ちないように船縁に手を掛けながら、中腰で弘樹に近づき声を掛けた。 「なぁ、遥…。あれって『デュナス』かなぁ?」 と、前を向いたまま、わたしに答えた。 海上都市『デュナス』 全長3キロメートルにもなる、米軍が作った人工の海上都市だ。 何本もの滑走路や格納庫を備え、その家族達の居住区まで備えた、一大海上都市。 噂では地下に様々な研究施設があると言われているが、さだかではない。 朝鮮半島、某国の動きと、その半島の緊張状態が高まると、米軍は、わずかな期間で、このメガフロートを建設した。 事前に日本政府と、アメリカの条約が締結していたらしい。 もちろん反対派もいたが、半ば強引に建設に至った。 わたしも船縁にしゃがんで、弘樹の見る水平線を両手をかざして見た。 真夏の日光が波打つ海面をきらきらと反射して、見えにくかったが、かすかに海面にマッチ棒を浮かべたような物が見えた。 「うん……デュナスかもね」 と、わたしは答えた。 「………この距離で、あれだと…かなりデカイな」
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加