瀬戸の小島

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「うえぇ……もぅダメだぁ……」と、船縁から海に顔を出した洋介が、うめき声を出した。 「大丈夫ですか、洋介さん?」 優しい美香が、洋介の元に行き、背中をさする。 「ありあと…美香ちゃん……」と、洋介は情けない声を出す。そして、両手で美香の片手を握った。 「こらっ!何気に美香の手を握るな! 美香、そんな酔っぱらい放っときな」 「お姉ちゃん…」 美香は複雑な笑顔をわたしに向けたが、背中をさする手は止めなかった。 美香は、昔から誰にでも優しい。そして、おっとりしていて、粗忽なわたしとは姉妹とは思われない事も多々ある。 美香が高校に入った頃、ある男の子から付き合ってくれと言われ、散々迷ったあげく、結局その男の子の熱意に押されて、美香は何度かデートをした事があった。 しかし、すぐにその男の子の二股がバレて、美香との関係は解消した。 わたしは猛烈に怒ったが、そんなわたしを押し留めるように美香は言ったものだ。 わかってたよ、お姉ちゃん。わたし、知ってたの。 少し悲しげな表情で笑う美香に、わたしは何も言えなかった。 つまり、そういう娘なのだ。 そして、その話には後日談があり、美香と別れた男の子は次の日、顔や腕に包帯を巻いて登校してきた。 同じ日に登校してきた洋介も顔に何ヵ所か、絆創膏を貼っていた。 わたしは、洋介に詰め寄ったが、自転車にぶつかってさぁ。と、笑うばかりで何も言わなかった。 別に洋介と美香は付き合ってはいない。洋介は相変わらず、へらへらしてて、美香も相変わらず、おっとりしている。 だけど、二人には二人だけの世界があるように、わたしは感じていたから、それ以上追及できなかったし、何も言わなかった。 「出た、鬼姑。俺は船酔いなんだってば」と、洋介は、げんなりした顔で船縁に寄りかかった。 しかし、両手は美香の片手を包んで離さない。 わたしは、洋介と美香の側まで行って、洋介の手をぴしりと叩いた。 「調子に乗るな」 「いってぇ。ねぇ、美香ちゃん。ほんとにこの人、お姉さんなの?」 美香は黙って苦笑するだけだ。 「なんですって、洋介くん?」 わたしは大袈裟に拳を振り上げた。 「ひえぇ、勘弁」 洋介も大袈裟に身を縮めた。
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