瀬戸の小島

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そんな時、船を操船していた、波吉さんが、振り向いて大声で言った。 「着いたぞい!あれが宇賀島じゃあ!」 それを聞いた、わたし達は、操船室の両方のスペースから顔を出して、前方を眺めた。 きらきらと陽光の照り付ける海面の先に、まるで、のっぺりした山の様な島が見えた。 山の部分は濃い緑に覆われている。 わたし達は、否応なしにテンションが上がってくるのを感じた。 やがて船は、島に最接近し、コンクリートで出来た港に、ゆるゆると近付いて行く。 他にも小さな漁船が数隻あり、ゆっくりと波に揺られ上下していた。 近隣には、小さな倉庫が、いくつかあるだけだった。 人影が、まばらに見えた。 そして船は、一つのコンクリートの岸壁にぶつかった。 あらかじめ、波吉さんに言われた通りに、わたし達は船縁をつかんでいたが、船縁に吊るした車のタイヤと、岸壁がぶつかる、ゴツンとした衝撃に身体が大きく揺れた。 岸壁には一人の若い女性がいた。まだ20代であろう、その女性はTシャツにホットパンツで、よく日に焼けている。 波吉さんが投げたロープを受け取った女性は、慣れた手つきで、岸壁にある鉄製の黄色い船止めに、手早く括りつけた。 今は干潮らしく、船縁と岸壁との差は、1メートル半くらいあり、簡素な木製の、はしごを昇らねばならなかった。 最初に美智子が四苦八苦しながら、はしごを昇った。 それから美智子のバッグを手渡しで、一番身長の高い、周平が渡す。 そんな作業を繰り返して、わたし達は、宇賀島に降り立った。 「どうも、初めまして。わたし、三年前から島本さんの所で、お手伝いをしてる、岸本 美保と言います。よろしくお願いします」と、先ほどの女性は、深々と頭を下げた。 わたし達も、よろしくお願いします。と、全員で頭を下げた。 荷物を持ちます。と言う美保さんに、わたし達は丁重に、お断りしたが、美保さんは何だか手持ちぶさたな様子だった。 申し訳なく思ったが、わたし達だって、荷物を持ってもらうなんて、申し訳なかった。 「もしかして、美智子って、お嬢様?」と、わたしは、こっそり聞いたが、そんな訳無いよ!と、美智子は否定した。
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