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糸
田川雅之は友人達数人で集っていた。
『挙式や披露宴は出来るだけ手づくり感を出したいんだ。それと、愛情たっぷり詰まったアットホームな感じになるようお願いできないか?』
新郎であり、親友の慶次からリクエストを受けた雅行が皆にそのことを伝えると、新婦の友人を始めとした女性陣達は、慶次のさりげない気遣いを羨んだ。
だが、その裏側にある美紗の凄惨な生い立ちを知る者は少なかった。
美紗は小学校2年の時、父親をガンで亡くした。
父の死によってもたらした遺産は、残された母子の生活だけには留まらず、母親の性格をも変えてしまった。
一人っ子の彼女が母親と接する機会は減り、次第にひとり寂しく過ごす日々が増えた。
母親の緑は、最愛の夫に先立たれた哀しみに暮れ、酒に溺れたことをきっかけに、夜な夜などこかに外出するようになると、終いには少しばかりの現金を美紗に渡して忽然と家を飛び出した。
ひと月後、母は彼女を残したまま、不慮の事故にあって他界した。
表向き事故としたが、実際は自殺と断定された。
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