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確かに、魔術はアキにとって忌むべきものだった。先程彼女が行った魔術に対しても心の底で憎悪が燻ぶる感覚を覚えた。
しかしそれをミサキに当てつけるのは最低の行為だ。彼女は彼女自身の好意で自分の治療をしてくれた。怒りの矛先は別であろう。
アキは少し風に当たろうと、近くの小窓を開けた。既に時刻は八時。外は暗闇に包まれ、索敵用サーチライトが夜空を照らす以外の灯は何も無い。
───いや、無くなってしまった。
「数年前までは、この辺も人が一杯で、にぎやかで、夜景も綺麗だったのに。どうして、こうなっちゃったんだろうね」
隣でミサキが呟く。
「通天閣も、大阪城も、新世界も、みんな無くなっちゃった。もうあの騒がしさは、戻って来ないんだね」
目が慣れると、暗闇に薄らと浮かび上がる影。それは中心部から無残に折れた通天閣の姿だった。
アキの部屋からは、それが余計に良く見える。
東京のテロ事件の実に二ヶ月後、『MERLIN』が標的にしたのが此処大阪府だった。軍事的拠点は無い物の、第二首都の肩書を持つここは、彼らにとって格好の標的だったのだろう。
空爆術式───と後に名付けられるこの魔術は大阪市上空から戦闘員も民間人も誰も彼もお構い無しに空から爆撃を仕掛けた。当時の自衛隊が対抗策を持っているはずも無く、大阪府も壊滅状態に陥った。
折しもこの日が、日本と言う国が、最も尊んでいた、憲法九条の改正を決断させた日となった。
アキはこの兵士養成学校に来て既に一年が経つが、それでもこの街が荒廃している姿を直視したくはなかった。
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