1 アウトサイド

14/14
前へ
/85ページ
次へ
月夜は嫌いだった。然したる理由も無いのに不安が募る。月明かりが脳髄を犯し、潮が満ちる様に朽ちた記憶を蘇生させる。 2008年12月13日。満月。アキの脳裏に再生されるは東京が壊滅した日、───すなわち自身の姉を眼前で喪った日であった。 明日の存在が、瞬時にして失われた世界。未来の存在を、かつてのように保証されない世界。命を賭して敵を殺す為生きる世界。 こうしている間にも、前線では幾多の命が散り、星と化す。いや、そんなロマンチックな表現は出来ない。唯敵に屠られた者は、無機質な棺に詰められるのみ。 月が陰る。光が薄まり、闇が辺りに浸透する。 虚空には野犬の遠吠えが、厭に淋しげに響いていた。
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加