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「───っ!」
鼻先を切っ先が擦れる。
上体を反射的に反らし、敵意の塊の様な刃を避ける。
既にこの身に残った体力は僅か。呼吸を整える事など出来やせず、早鐘を打つ心臓の鼓動が頭の中に不快として響き渡っている。故に残るは数分のリミット。そこにしか反撃の糸口は残されていない。
「─────っ……」
回避行動から体制を立て直し、自らの剣を握り直す。持ち手は汗で滑り、この状態で逆転の一撃を決められるか否か。
相手を一瞥する。眼に写るは剛腕と見るものに威圧感を与える強面。かつ筋肉に張った肩。細身の自分と比べると大層な力量の差があるに違いない。
先程の一撃から、相手も佇まいを正し、こちらの動向を伺っている様子だった。
剣戟を加えるなら、もう一度、あちらの攻撃を回避してからが良い。
先程からの打ち合いでは、相手の剣技はその剛胆な体付きから生み出される強大な力に頼っている様に見えた。
だったら、その隙を狙って一撃入れてやれば良い。相手も間違い無く消耗しているはず。勝機は、ある。
眼線を相手の剣に全て集中させる。一挙一動も見落としてたまるかと言う様に、息を飲んで凝視する。
…待て。
……待て。
………………。
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