第1章

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すでに日は落ちて、門扉の灯りが灯っている。 いつもの癖で郵便受けを覗いた俺は、…不思議なものが入っている事に気付き、手を挿しこんだ。 ダイレクトメールの山に乗っていたのは、……白い、レースのハンカチ。 なんだ、これ。 新聞屋の景品にしては、…むき出しだし、使ったような形跡がある。 気持ち悪。 俺は、ダイレクトメールの束の上にそのハンカチを乗せて、そのまま玄関のチャイムを鳴らした。 リビングに顔を出すと、兄の和真がソファで煙草を吸っていた。 「…ただいま。」 声をかけると、ソファの背もたれに顔を乗せて、こちらにニッと笑顔を向ける。 「お帰り。……今日の夕メシ、寿司でいい?」 うん、と短く答えて、リビングのゴミ箱に、ダイレクトメールとハンカチを放り込む。 自分の部屋に荷物を置き、着替えてからリビングに戻ると、和真が電話を終えたところだった。 「特上寿司にしといた。 母さん、今日も夜中だって言うからさ。…たまにはイイもん、食おうぜ。」 「…ん。だね。」 俺は、さっきまで和真が座っていたソファに腰掛け、テレビのリモコンを手に取った。 「テツ。」 「…んー?」 「もうすぐ、…命日だな。」 「……。」 テレビの電源を点ける。 チャンネルは、プロ野球の、ナイトゲームの中継だった。 「墓参りとか、行く?」 和真は、出来るだけさりげなく、言おうとしたようだった。 俺は、チャンネルを変えた。 「行かない。」 自分の、思いのほか強い口調に後悔して、急いで笑顔を作って振り返った。 「おれ、学校だもん。」 見ると、和真も笑顔を作っていた。 「だよな。 …じゃ、暇な学生の俺が、花でも供えてくるわ。」 「…よろしく。」 顔を戻すと、テレビから、子供向けアニメの主題歌が流れ始めた。 .
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