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漏れ聞こえてくる大音量を背に、俺はカラオケ店の待合席に座ってカップのコーヒーを飲んでいた。
…なんで来たんだ、俺。
みんなの楽しい空気を壊したくなかったので、途中でそっと抜けてきたけれど…。
カラオケどころではない。
ボックスの中でも、つい笹森に目が行ってしまう。
気がつくと、楽しそうにはしゃぐ彼女を見つめているのだった。
…どうかしてる、と思った。
空になった紙コップを潰す。
狙いを定めてシュッと投げると、パコ、という音を立ててゴミ箱に落ちて行った。
そろそろ戻らないと、さすがに感じが悪いかもしれない。
もう一度、ここに来た事を深く後悔し、部屋に戻ろうと立ちあがった。
振り返ると、目の前に桐生カオリが立っていた。
「…びっくりした。」
「…ごめん。」
桐生は、にっこりと笑った。
「ちょっとさ、…話、あるんだ。…今、いい?」
上目づかいに微笑む。
「…何?」
「ちょっと…こっち、来て。」
桐生が、俺の手を取った。
手を引かれるまま、廊下を進む。
桐生は、一番奥の空き部屋にまっすぐ入って行った。
扉を閉め、こちらに向きなおる。
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