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「大丈夫なの?…勝手に空き部屋、入って。」
薄暗い部屋で、桐生はしばらく黙って、俺を見つめた。
遠くから、音程の外れた大きな歌声が聞こえてくる。
「…春山くん。……私さあ、1年の時、告白したよね。」
「…だっけ。」
「…だっけ、って…ひどい。」
桐生は、拗ねたように言った。
「私、ずっと…断られてからも、春山くんの事、好きだったんだよ。」
細い腕を、こちらに伸ばす。
桐生は、ゆっくりと俺の背中に手を回した。
「…もし、彼女いないんだったら…。もう一度、考えてくれないかな。わたしのこと。」
そして、俺の胸に顔を埋めた。
「なんで、俺なの。…桐生なら可愛いんだし、他にいくらでも…」
「だめなの。」
桐生は、少し鼻にかかった声で囁いた。
「自分でも、あきらめなきゃって思ってたんだけど…。
どうしても、…春山くんじゃなきゃ、だめなの。」
「……。」
「春山くんのこと、…元気づけてあげたいの。」
桐生は、さらに強く抱きついて来た。
…元気づける…。
俺の心に、乾いた感情が広がり始めた。
「付き合ってもらえないんだったら…。」
桐生が、俺の手を取って、自分の胸に押し当てた。
柔らかな感触が、服の上から伝わって来る。
「セフレでもいいから。…わたし、春山くんのためなら…何だってできる…。」
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