第1章

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入学して、二か月ほどたった頃だった。 俺は、初めて笹森美羽と言葉を交わした。 その日、放課後に先生の頼まれごとを手伝った俺は、すっかり遅くなった事に少し焦って、ほぼ駆け足で教室に向かっていた。 教室に戻り、足を踏み入れようとして、立ち止った。 夕暮れ時、薄暗くなった部屋に、人影がある。 机にうずくまっているような…黒いかたまり。 灯りのスイッチをパチ、とONにする。 「…笹森?」 びく、と肩を揺らして、笹森美羽が顔を上げた。 「あ…。春山くん…。」 半分寝ぼけたような顔で、呟く。 何かが顔に当たった状態で寝たのか、頬にスジが付いている。 「どうしたの。…寝ちゃった?」 笑いながら、自分の席に向かう。 「やだ…もう、こんな時間…。」 笹森美羽は、慌てて姿勢を正し、ペンを手に取った。 「日誌、書いてたの。…日直だったから。」 「そう。」 俺は、自分の鞄を手に取ると、教室の後ろの出口に立った。 振り返り、笹森の背中に声をかける。 「…じゃ、…ばいばい。」 「あ…うん、…ばいばい。」 廊下に出る。 長い廊下は、薄暗く、どこまでも遠く続いているように見えた。 一人でこの廊下を歩く、笹森の姿を思い浮かべる。 「……。」 俺はその映像をすぐに打ち消して、歩き出した。 角を曲がろうとして、…ふと立ち止る。 .
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